ボクは旅や冒険が嫌いだ。
それなのにボクはこうして
自分の探検旅行のことを語ろうとしている。
主人とはぐれた日のことだ。
そこは
日本という国にある
民族学博物館という
文化人類学、民族学の
研究活動と成果を
展示する場所らしい。
そこには遠い遠い昔から
現代のモノまで展示してある。
たいくつで
あくびの練習にもならないけど
主人を探すついでに
ちょっと見学してみることにした。
こんなガラクタたちを飾って、いったい人間たちは何を学ぶというのだろう。
ガラクタとは失礼しちゃうな〜。
だ、誰だい君は?
ここで生まれた精霊とでもいっておきましょう。
ここに展示しているのは世界から収集された28万点のうちのごく一部。それでも十分、世界には色々な民族や文化があることが学べるようになっているんだよ。
…ということで
彼に案内してもらいながら主人を探すことになった。
確かに、なじみのない文化であったとしても、生活が中心に展示してあると違いがわかりやすいのかな。
そうだよ。人間たちの生き方の豊かな多様性がわかると思うよ。
人間の世界にも興味が出たところで、では、ちょっと具体的に見てみるかね。
人間たちは欲張りだから、目に見えるものだけでなくて、目に見えないものも作ってきたんだ。
人間は昔から、ボクたち猫族をはじめとする動物たちでもない、不思議な生き物たちと共生しているんだね。
うん、そうなんだ。人間は、世界には目に見えないものがたくさんいて、それが世界を動かしていると思ってきたんだね。
それから人間たちは、死ぬと、つまり見えない存在になると、墓というものに入りたがる。
我々猫族は人知れず、否、猫知れずこっそり見つからないように死ぬけどなあ。最近はまあ、墓に入る奴もいるけど、迷惑だね、僕ぁ。
おたがいの歴史や宗教や政治や経済がぶつかって、今も各地で、民族のあいだで紛争が起きてるんだ。
とどのつまり、僕たちも縄張りやご飯で喧嘩することがあるけど、すぐ喧嘩は終わるよ。人間はそれをずっと続けるんだね。自分たちの違いを理解して歩みよれないのかな。
紛争や経済問題等の理由で移民が増えている。だけど、それぞれの移り先にも事情があって、対立が生まれているんだ。
僕ら猫族も、自分の縄張りに違う猫が入ってくると、追い出そうとするけどね。 人間はもうちょっと賢くて、違う人たちと共存しているのかと思ってたけど、僕らとあんまり変わらないんだね。でも、それでいいのかなぁ。
だけど人間たちは、対立するばかりじゃない。焼き肉やステーキを食べなかった昔の日本人が食べるようになったり、 世界中の人たちが寿司を食べるようになったり、民族を越えて色々な文化がまじりあっているよ。
人間たちは楽器という道具を使ってキーキープープー音を立てているが、猫族にはそれがさっぱりわからない。 だけどどうも人間たちはそれで理解しあっているようだ。その音の中にはたくさんの意思や感情が詰まっているらしいね。
そうだね。それから、音や音楽、楽器を通じて、神仏や精霊などの「見ることのできない存在」と交わってきたんだよ。
我々猫族にも言葉があるけども、まー人間たちは言語が多いし複雑だ。ひとつじゃダメなのかな。
言語が違うと、独自の民族としてカウントするんだよ。
だいたい何をそんなに話すことがあるのかな。 おはよう、こんにちは、いいお天気ですね、おやすみなさい…。お腹が空いたくらいでよくない?
人間たちは粘土や紐や紙や竹などに、様々なごにょごにょとした形の文字というものを使って、言葉を記録しているようだけど、そもそも人間はなぜ言葉を残すのか?忘れちゃいけないのかなぁ。
さあ。少なくともことばは、人間たちにとって、感情や知識など膨大な情報を空間や世代を超えて伝達できる、かけがえのない資産であることはまちがいないよ。
人間世界も猫族以上にたいへんだってことはわかったけど、そもそも民族や民族学って何だろう?
人間の集団はそれぞれ言葉や宗教が違っているので、民族というんだ。世界には、7000とか8000とか民族があると言われているよ。
そんなにあるんだ!でも、言葉や宗教が違うと、おたがいに理解するのが大変だろうね。
そうなんだ。世界中にある戦争や紛争の多くは、相手を理解しないことから起こっているんだ。 だから、違う宗教や言葉をもつ人を理解するのが大事になる。民族学というのは、それをめざした学問なんだよ。
それで民族が互いにもっとわかり合うようになれば、戦争や紛争が減るだろうし、それが 最終目標なのかな。
おや、あれは君の主人じゃないのかな?
あ、本当だ!
世界は人間なしに始まったし
人間なしに終わるだろう
民族学者 / 文化人類学者 : C・レヴィストロース
(悲しき熱帯.2 P425 より引用 )
・・・ともあれ、ボクは存在するよ。
やれやれ。
人間てのは大変だね。
ぼくたちみたいに自由に生きていれば
あくせく働く必要もないし
たまにはちょっと喧嘩をすることはあっても
戦争なんてのはないんだけどね。
★ブリコラージュ
ありあわせの材料、道具を使ってモノを作ること。文化人類学者・レヴィ=ストロースが「野生の思考」をブリコラージュによるものづくりに例えたのが有名。
★ジョージブラウンコレクション
宣教師であり神学者であるジョージブラウンが独自で収集した民族資料のコレクション。英国ニューキャッスル大学からみんぱくが購入。
https://www.r.minpaku.ac.jp/GBC/jpn/index.html
★鳥
「鳥」は色々な民族において、多くの象徴(神と人間をむすぶもの等)、隠喩として機能しています。門や墓、彫刻など、みんぱく内の展示物を見ていても、たくさん見受けられます。
★仮面
基本的には仮面は儀礼で使われていましたが、そののち形骸化し芸能へと変化しているものもあるよう。
★儀礼
儀礼はたいてい精霊・祖霊との対話を指すそう。
(C) 総研大デジタルミュージアム 2016 / 無断転載禁止